古いお話ですが学ぶところ大です。
昭和32年頃、一見の電気屋さんに訪れた際の出来事です。
一人のご婦人が片手に新しいアイロン、もう片手に修理した古いアイロンを持って飛び出してこられました。
ご主人にどうしましたか?と聞くと「昨日の夕方、あの奥さんがアイロンを持ってこられたんです。
そこで見てみると昭和7年~8年頃の本当に古いアイロンだった。びっくりしたが奥さんに
『こんなに大事に使っていただいて、松下幸之助さんが見たら喜びますわ』と言った。
すると奥さんがポロポロと涙を流されたのです。
聞いてみるとうちの店に来られる前に駅前の電気屋さんに修理をお願いしたらしい。
そこの経営者は箱の中を見ずに『奥さん、こんな古いアイロンは部品がありませんよ。
修理したってかえって高くつきます。2700円の自動アイロンがあるからこれを買いなさい』
と全然相手にしなかったようです。
ところが奥さんにとって、そのアイロンは嫁に来るときに母親が買ってくれた唯一の嫁入り道具だったわけです。
父親が早くに亡くなり、母親が日雇い仕事をして育ててくれた。
そうした環境下でも素敵なお嬢さんとなり、同級生から是非にと結婚を申し込まれ、
母親は『この子には今、来ている着物とアイロンがたった一つの嫁入り道具です。それでもいいですか』
と聞いたが『もちろん、嫁さんさえいただければ』ということになり嫁に来たとのことです。
母親はアイロンを買うに際して
『お前がどんなに忙しくても、旦那さんのワイシャツや身の回りのものにはアイロンをかけなさい。
どんなに繕ったものでもアイロンをかけてビシッとしていれば見る人はちゃんと見てくれるから、
それだけはしてあげなさい』と言って持たせてくれたそうです。
それだけにこの奥さんは、お母さんの亡くなった後は、このアイロンを本当に自分の母親ぐらいの
気持ちで大事に、大事に使ってこられた。それを邪険に扱われ腸(はらわた)がちぎれるような思いで
駅前の店を出て、ふと顔を上げた時にうちの店が目に留まり、飛び込んでこられたんです。
そんなわけで私が「松下幸之助さんがどんなに喜ぶでしょう。部品はありませんが、私が手作りで直してみます。
治るかどうかわかりませんが、明日来てください』と言って帰ってもらった。すると奥さんは朝、来るなり
「あのアイロンは治っても治らなくても結構です。2700円の自動アイロンをください」というのです。
しかし、私は『これは直ったし、3年使えるか5年使えるかわからないけども、無理して新しいの買わなくてもよいのです』
と言ったが、『売ってくれ』『売らない』と押し問答になり、ついに奥さんは3000円を置いて飛び出して行かれたのだ」
ということだったのです。
本当の長いお付き合いをするためには、こういうお客様との付き合い方をすることが必要なんだと感じた次第です。
PHP通信 「松下幸之助に学ぶ」から
志向が多様化し、モノがあふれかえり、消費スピードもますます増している時代。
こうしたお話は今の時代にはそぐわない部分も多々あるでしょう。
それでも人には必ず「心」というものがあります。人の心に寄り添う意識はどんな時代になっても忘れてはいけないと
改めて思います。
どんな時代になっても営業・経営において大切にしたい考え方でありエピソードということでご紹介しました。
上記の記事は弊社の根幹となる哲学「喜びの帝王学」を基にしています。